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1. 研究の目的

 

一般船舶では次の理由で空倉時に専用バラストタンクに海水を積む。
a)針路安定とプロペラを沈めるために十分な喫水を取る。
b)船体のトリムを調整する。
c)船体縦曲げモーメントと剪断力を許容値まで低下させる。
ところが海水による鋼材の腐食は顕著であり、また海水中の鋼構造の疲労強度は大気中に比較して大きく低減する。そこでこれを防止するために次の対策が施されている。
A)タールエポキシ塗料のような適当な塗料を建造時に塗装する。
B)電気防食を行う。
C)鋼板の厚さを増す。
船級協会の統一規則により塗装が要求されているのでタールエポキシの塗装が実施されているが、塗膜は板の角や溶接継手等の下地処理の不十分な箇所から劣化、破損して鋼板が露出し腐食が開始する。塗膜の状況と構造部材の損傷の関係は次のように分類される。
 紡?期
塗膜の状態は比較的良好であるが(NKの塗装状況cCより良い)、構造部材にき裂が発生している。(建造後8年間位まで)
◆紡?期
鋼板の角や溶接継手の塗膜が破損し、局部的な腐食が生じており(同cD)、腐食した箇所にき裂が発生している。(建造後9乃至12年間)
?紡?期
構造部材全体に腐食、衰耗が進行している。(建造後13年以上)

 

塗装の状態は建造時の塗装と就航後の保守点検の手の掛け方に大きく依存するが、塗装が健全であってもバラストタンク内の損傷は跡を絶たない。
一般に腐食或いは腐食疲労とは上記の第1期から第3期までの損傷を漠然と指している。本研究部会では研究の範囲を第1期の疲労き裂に絞ってその機構を解明し、具体的にバラストタンク内の損傷防止に寄与することを目的として研究を実施した。
1)KA32級鋼の小型試験片を用いて大気中と人工海水中で疲労実験と残留応力計測を行い、疲労強度に対する温度、塗膜厚、電気防食の影響と効果を研究する。
2)実構造を模擬した同鋼種の中型試験片を用いて大気中と人工海水中で疲労実験と残留応力計測を行い小型試験片の成果の確認を行う。
3)腐食疲労のメカニズムの解明のためにき裂発生と進展の理論的検討をを行う。
4)就航船の損傷状況を調査し、各種の変化に対応するS−N線図をまとめ、船体構造部材の設計時に適用出来る腐食疲労強度評価法を提案する。
5)報告された腐食疲労試験結果と本研究成果をまとめてデータベースを構築する。
本研究の成果によりバラストタンク内構造部材の腐食疲労寿命予測法の向上、検査技術の方向付け及び長寿命化が可能となり、よって構造部材の腐食疲労による損傷の低減を期すものである。

 

 

 

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